タイの首都バンコクから約700キロ、ランナー王国の古都として栄えたチェンマイは落ち着いた佇まいを見せている。観光客にとっては山岳少数民族を訪れるトレッキング・ツアーの玄関口としても名高い。 しかし、1984年、タイで初めてエイズ患者が報告されたのは、ここチェンマイだった。「タイのエイズ発症者数が37,810人に対してチェンマイを含 めた北部6州(ランプーン、ランパーン、パヤオ、チェンライ、メーホンソン)だけで18,742人と、全国の50%を占めている」とチェンマイ大学マハラ ジャ病院で微生物研究を行うヴィチャン・ヴィチャヤサイ博士が説明してくれた。(1996年当時) 長年エイズ研究に携わってきたヴィチャン博士は、その限りある生命を大切にしようと「子供救済基金」のNGOを運営する。 「HIV感染者の母親が出産した赤ん坊は、たとえ胎内で感染を免れたとしても、育児の過程で必ず感染する」と博士は言う。 母子感染には母親の胎内で感染する子宮内感染以外にも、出産時の産道感染、それに授乳時の母乳感染がある。赤ん坊は特に抵抗力が弱いため、ほとんど3歳までに発症、5歳が寿命とされる。運良く生き延びても中枢神経が破壊され、障害者となる確立が高い。 子供救済基金が開設した「子供救済の家」で保護されている子どもたちはすべて捨て子だ。感染のためか、それとも貧困のためか理由はわからない。孤児院ではエイズ感染が判明した時点で収容を拒否することが多い。 日本でも薬害エイズ裁判以降、大きく報道されることが無くなったエイズ問題だが、職場や医療施設でさえ、エイズ患者に対する誤解による差別や偏見が後を 絶たない。それが薬害であろうと性的交渉によるものであろうと、感染経路のいかんを問わず、隣人として共存への道を目指すことが大切だ。
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