(1)偉大なおしり
カンボジアの首都プノンペンから、乗り合いタクシーに揺られること約4時間。目の前にコバルトブルーの海原が広がっていた。タイ湾に面した港町、コンポンソムだ。町は丘の上にあり、静かなたたずまいを見せている。私が訪れたときは、途中の道筋でポル・ポト派ゲリラが外国人旅行者を誘拐しており、一年中泳げる白い砂浜は人影もまばらで、水着など気にする必要もなかった。 手作りであろうか、小さな漁船に乗っていた老漁師に手招きされた。「飯を一緒に食って行け」という。海岸に建つ小さなあばら屋で釣ったばかりの魚をご馳走になる。 食後、便所を尋ねると海を指さした。「何でわざわざ小屋にこもって臭い思いをしなければならねんだ」。確かに広い青空の下での用便は爽快だ。隣の岩場からも「ブリブリ、ドボーン」と立派な音が聞こえてきた。見ると、白くて大きなおしりが海に突き出ている。大自然に生かされている人々のおしりは、とても美しく偉大であった。
2000年10月
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